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〔続 スイス悠々 秋色編〕(6)シンプロン峠~百の谷鉄道~ロカルノ 

国際特急のイタリア国境駅ブリークでポストバスに乗換(左上)。氷河急行を見ながら発車(左下)。ロータリーを通過/配達もこなした女性運転手 (左中上)。車窓から綺麗な山脈を撮影 (左中下)。秋色満載のシンプロン峠Simplonblick駅で下車:至近にナポレオンI世記念の大きな鷲の石碑 Simplon Adler

 10月初旬のマッターホルンを眺めながらの散策がロープウェイの予期せぬシーズン運行終了と知り、催行を止め、かつ、天候不順の具合から、晴れ間が期待できるシンプロン峠方面にポストバスを用いて出かけることにしました。小生は妻を伴い前年7月下旬に体験済ですが、秋は勿論初めてです。
 連泊するホテル至近のシュピーツSpiez駅で特急に乗車し、イタリアとの国境駅であるブリークBrigで下車し、郵便馬車の起源があり、郵便物・小型荷物を扱うポストバスPostbus 631に乗り換えます。
 さて、シンプロン峠は、ナポレオンI世が 1800~1807年に馬車道を建設して以降、ヨーロッパ中部と南部とを結ぶ重要な交通路の一つとなった由で、200年記念に峠界隈に大きなモニュメントが建設されています。愛称はSimplon Adlerで、大きな石造りの鷲です。そして、地図を見ると峠界隈の山裾にローテル湖Rotelseeがあり、ここを訪れる散策路の確認も事前に済ませました。また、ポストバスの運行は1時間毎であり、峠界隈で約1時間の散策を楽しむことにしました。スイス連邦鉄道SBBでのダイヤ検索には工夫を要します。地図を見つつ、下車するバス駅と、散策後に乗車するMonte Leone駅を決めました。シンプロン峠を走るバスは、ブリークからイタリアのドモドッソラDomodossolaを結んでいます。イタリア国内ですが、例外的に、スイストラベルパスの適用区間になっています。理由は、ブリーク、シンプロンから東南東に位置するイタリア語圏の保養地ロカルノLocarnoを結ぶ界隈は、イタリアが北側のアルプス地帯へ深く入り込んでいる地勢的な特徴にあると理解しています。

次のバスまで1時間のシンプロン峠界隈の散策:上段は秋色の今回。下段は2016年7月の色合

 ところで、スイス東南部のロカルノに行くために、宿泊地シュピーツ発で検索すると、ブリークで下車せず、建設当時世界一だった20km近いシンプロン・トンネルを通過し、ドモドッソラで下車し、チェントヴァッリ鉄道に乗り換え、ロカルノに着く鉄道コースがヒットします。この路線を走る特急は、ミラノ中央駅行が多く、時間帯によっては、ヴェネツィア行や、ドモドッソラ行があります。つまり、各々イタリア行の国際特急の扱いです。ブリークからロカルノへの直行列車はなく、“百の谷”を蛇行しながら走る単線の私鉄線のチェントヴァッリ鉄道Centovallibahnを利用することになります。
 さて、シンプロン峠で下車すると、秋色真っただ中でした。晴れ間はありましたが、一方、大きな雲が襲い、冷たい風が吹き、時に小雪が舞い散る有様・・・。が、防寒具を着込み、傘をさすほどではなく、天候の変化に親しむかのごとくに歩きました。幸い、土道を含め、路面は乾燥していました。
 足元は枯草が主体で、ごく稀に咲いている高山植物を愛でる程度で、夏に訪れた際の、咲き誇る花々と湖面の輝きが懐かしく思えました。7月下旬と10月初旬の環境の違いを組写真で対比しました。
 1時間ほど散策した後、計画通り、Monte Leone駅でポストバスに乗車しました。この頃から、安定した晴れになり、景観が輝き始め、万年雪・氷河を抱く高山を眺めつつ南下し、ヘアピンカーブを含め、峡谷を下り、イタリアへ。車窓から、変化が大きく、雄大な景観を堪能し得ました。
 イタリアに入る頃には快晴になり、ドモドッソラが近い界隈では、交通標識、雰囲気の違い、のびやかな環境を体感しました。
 ドモドッソラ駅界隈で、乗換時間のひと時を遊びます。狙いは、勿論、本場のジェラート!

再びポストバスに乗り、峠から渓谷を下る。トンネルを見降ろし(矢印)通過(左)。国境を越え(左中上)、スイスの高山を後方に眺め(左中下)、イタリアの雰囲気を感じつつ(右中)ドモドッソラ到着。駅前での戯れ

 日本でも個性的なジェラートには出会いますし、機会に恵まれれば、購入し舐めます。本場イタリアに入れば、とくにマンゴーがあれば、舐める行動は定番の小生です。
 イタリアの食文化が定着しているオーストリアでも同様で、ウィーン市内に限らず、日帰りで出かけた先でも、体験し続けています。2018年5月はイタリア国境に近いフィラッハVillachを初探訪しました。全日の“乗り鉄”的行動で、ウィーンを起点として時計回りに三つの特急を乗り継ぎ、オーストリアを周遊しましたが、乗換地がフィラッハでした。初めての街を散策中、ジェラートの店を見出したのですが、復路に体験。何と、日本で馴染みのソフトクリームを、従業員によらず、セルフで盛る方式だったのです。初体験でした。コーンが大小3種類あり、これに選択した味のレバーを操作し入れます。レジに行き、テーブルの穴に垂直に置くと、重量計算され、価格が表示されました。選択したマンゴーソフトアイスクリームは、まるで上質のマンゴーを舐めるがごとくで、至福の一時になりました。

 スイスではMOVENPICKがお勧めです。初体験は2009年秋のロンドンでした。妻を伴い市内中心部に5連泊した際、近郊電車でヘンリー8世ゆかりのハンプトンコートを訪れ、巡った後に、閘門も通過してテムズ川を下る人気の観光ボートに乗り、高級住宅街リッチモンドの桟橋で下船。河畔の至近に、アイスクリームの出店がありました。妻が気づいて買い求め、舐めたら美味しくて、小生も追加購入! それ以来、モーヴェンピック(www.moevenpick-icecream.com)のファンで、舐め続けています。 パリでもジェラートに出会いますが、何と言ってもAmorinoがお勧めです。妻の願いで“パリの雑貨屋”をサン=ルイ島に見出し、案内した際、ファッショナブルな雑貨屋での買い物をした後のこと。東西に延びる主道、アン・リル通りの某角に花・花弁をイメージする美味しそうな看板写真に誘われて入った店がアモリーノで、創業店でした。日曜日も営業するようになったパリ最大の百貨店で観光地でもあるギャラリー・ラファイエットGaleries Lafayetteの店内数か所に大きなポスター写真があり、支店があることを知った次第でした。アモリーノは、過去に経験したアイスクリームの中で、最も粘り気が強いのです。このため、驚きのデコレーションが成立します。それは、2・3種のアイスクリームを選択すると、店員がしばし想いを巡らした後に手を動かし始め、花弁を大きく、独創的な花を創るのです。これが可能なほどの粘性があり、容易には溶けません。他では経験し得ないまま今日に至っています。本稿を書く際、HP (www.amorino.com) を確認しましたが、写真が多く、見ていても楽しい限りです。

ホームページ版のみの写真追加 →

 つい、アイスクリーム談義になりましたが、フィラッハの自前で作るマンゴーのソフトクリームと花のアモリーノは追体験したいと願っています。アナタも是非どうぞ!

ドモドッソラとロカルノ間は単線のチェントヴァッリ鉄道:窓の開く旧車両が幸いした秋色の車窓点描。右上下は反対列車の待ち合わせ中:窓が開かない観光列車TRENO PANORAMICO VIGEZZO VISION

 さて、ドモドッソラ駅は地上階に南北方向の国鉄ホームがあり、地階には東西方向にチェントヴァッリ鉄道のホームがあります。ロカルノ行快速車両は、窓が開く旧車両で、幸いでした。前年に妻と乗車した際は、新型の観光車両TRENO PANORAMICO VIGEZZO VISIONで、残念ながら、窓が開かず、かつ、検札に来た車掌から3EURの追加料金を徴収されました。何と言っても、窓が開く車両が“良い車両”で、窓から顔と手を出して、車窓からの景観を楽しみつつ、写真が撮れることが嬉しいのです。
 日本のガイド本にチェントヴァッリ鉄道とあるのですが、語学に疎い小生はその意味に当初気づきませんでした。
 外国の通貨で、最初に体験したのが、英ポンドで、その下にセントコインがあり、100セントが1ポンドと知りました。(日本円の下位に銭があります。まさか、銭の音がセントcentoと似ているのは偶然でしょうか・・・。)
 気づいてみれば、“百の谷”鉄道は、チェント(100)ヴァッリ(谷)鉄道だったのです。勿論、ズバリ100の谷ではなく、谷合が深く、複雑である地勢を、単線、鈍足で走る路線の愛称と言えます。
 2016年夏に妻を伴った際は、彼女の体力等で、イタリアからスイスに入る国境の村カメドCamedoで折り返しました。カメドは谷が深く、見下ろす湖面(ダム湖 Lago di Palagnedra)もあり、観光写真で馴染みです。勿論、観光客が降りる駅ではなく、斜面にワイン畑がある、小さな山村の印象でした。
 妻が空腹を訴えたので、調査済の小さなホテルを訪ねました。“頼もう!”的な気合で「Hallo!」と声をかけて出て来た若い女性には英語も通じない。イタリア語圏であり、小生は話せない。が、幸い、意図は明確なのでジェスチャーで願いが叶い、パン、果物、飲み物を購入し、記念写真も・・・。この後、散策して、観光ポスターの定番となっている崖路から線路と湖、橋梁等を眺め、撮ることができました。
 イタリアからスイスに入る地点は車窓からは全く分かりません。懐かしいカメド駅に停車した時点で、スイスに入ったことの確認をする程度です。同駅を発つと、ダム湖を眺め降ろしつつ、谷を下ります。
 ロカルノが近くなると、住宅が立ち並ぶ平野部となり、地下鉄道に移行し、終点のロカルノ地下駅となりますが、ドモドッソラを出てからの大半は、変化が大きい車窓を楽しむことになります。“百の谷”は“百”聞は一見に如かずで、是非、アナタも体験・体感研修してください。おススメの呑気路線です。2時間弱ののんびりとした車窓を楽しみましょう。但し、前後・左右の車窓写真を撮るのは忙しい・・・。

“百の谷”を走るチェントヴァッリ鉄道の変化に富む車窓を堪能:カメドのダム湖を眺めつつ(左下)。快晴のロカルノ駅前は南国の雰囲気(右上)。上るフニクラの運転台横に立ち、下り車両を撮影(右下)

 ロカルノ地下駅で下車し、地上階にあるターミナル(行き止り)の国鉄駅を横目に眺めつつ、南国の雰囲気にあふれる駅前へ。事前学習済ゆえ、ためらわずに駅前通りを左へ歩き、間もなく目的のケーブルカー駅に到着。ケーブルカーで登り、マドンナ・デル・サッソ教会Museo Casa del Padreを訪ねます。
 初探訪ロカルノLocarnoの標高は、スイスとは思えない200mに過ぎません。スイス政府観光局には、アルプス山脈の南方に位置する保養地で、国際映画祭でも著名な地との紹介があります。
 さて、イタリアのケーブルカーで思い起こすのは、民謡「フニクリ・フニクラFuniculi・Funicula」です。ヴェスヴィオ火山への登山鉄道で、観光客を誘う宣伝歌CMソングが広まり、愛されて民謡扱いになり、日本でも馴染みになったようです。
 スイス連邦鉄道SBBのHPには、[Locarno ・・・ walk 5min. ・・ ・Locarno Funicolare → Funicular 6min. → Orselina Funicolare]とあり、Funicular フニクラの情報が得られます。

 山頂駅であるOrselina Funicolare駅の至近に、崖の上に建つ美しいSacro Monte Madonna del Sassoマドンナ・デル・サッソ教会があります。同教会はロカルノを代表する観光名所で、美しい外観とはかけ離れた険しい断崖の上に建つ異様さを感じます。フニクラで登る半ば過ぎ、車窓前方左手に眺めることができますが、一時的であり、見逃せません。山頂駅に到着後は、教会を見下ろす景色になります。
 教会界隈・内部からロカルノの街、マッジョーレ湖(Lago Maggiore標高193m)を見降ろすように眺める景観は、残念ながら期待したほどでなく、木々等に遮られて旧市街の視界が狭く、遠望が主体でした。一方、教会内部は期待以上に秀逸で、天上の聖母を想像する美しさを感じました。同日中にホテルに帰着する制約があります。滞在30分程度で、下りのフニクラに乗りました。
 下りフニクラも運転台横を確保し、前方車窓を眺めましたが、期待以上に秀逸な景観でした。ロカルノの街、マッジョーレ湖を眺めつつの下りはオススメです。勿論、車両の先頭に立ってのことです。
 登山電車然りですが、車両の何処に乗れば景観に恵まれるかは、常に考慮している小生です。単なる移動手段の際は席に座りますが、“車窓研修”の際は、ほぼ“立ち見”に徹しています。何時間でも・・・。

ロカルノ点描:崖の上に建つ美しいマドンナ・デル・サッソ教会。内部は予想以上に美しかった(左)。
秀逸なフニクラの
下り車窓(左中)。旧市街の路地(右中)。カラフルな建物に囲まれたグランデ広場(右)

 裾野駅で下車した後右手(西)方向に歩むと賑わう旧市街です。地図で概要を掌握済ゆえ、坂の街なので適当に路地を上り、古い教会等を巡り、反時計回りに散策して、歴史的な建物が並ぶ美しいピアッツァ・グランデPiazza Grandeに降りました。多少の時間を活かして、広場に面したカフェで、大盛りの大皿を一人で食べる高齢者などをあきれ顔で眺めつつ・・・、本場エスプレッソを味わいました。時間を見計らって、湖岸沿いにのびやかな風景に親しみつつ、ゆっくり散策し、ロカルノ地下駅へ。
 10月ですが、緑が多く、花もほどほど咲いていたロカルノに別れを告げる時間帯になりました。快晴で、夕刻の温かい陽光が射す中、幸い、復路も“窓の開く良質の快速車両”の車窓を堪能し得ました。
 ドモドッソラに着く頃には、外界の光は失せ、車内の照明を含め、撮影を繰り返し、また、若者男性3人と車窓でじゃれるなど、楽しめました。
 ドモドッソラ国鉄駅に着いてみれば、列車が遅れており、予定していたシュピーツに直行するバーゼル行特急には乗らず、間もなく到着したジュネーブ行EuroCityに乗車。Vispウィスプで乗り換えて帰りました。はい、この程度の変更は難なくこなします。事前学習の成果です。

 この日も、スイストラベルパスをフル活用した全日旅になりました。感謝至極です。

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 終わりに、シンプロン峠を走るポストバス631の走行路線と、シンプロントンネルに位置関係などを地図で確認しておきましょう。

 なお、イタリアのドモドッソラ(D)を経由して、ブリーク(B)からロカルノ(L)に移動する際の交通がスイストラベルパスの適用区間で有る背景を示すスイスとイタリアの関係図を左下に添付しました。

 

 

 さらに、シンプロン峠界隈を地図で確認しておきます。

 ポストバス631をシンプロン・ブリック駅(B)で下車し、ナポレオンを記念した大きな鷲の石像(A)に立ち寄り、ローテル湖湖畔を歩き、シンプロン・レオーネ駅(L)まで歩いたコースを矢印()で示しました。Lが間もない地にあるMはナポレオンの記念碑です。​

※ 本稿は鳥取県東部医師会報 随筆欄に掲載・連載(レイアウトは異なります)

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