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〔続 スイス悠々〕

(14)ブリエンツ・ロートホルン鉄道

ブリエンツ・ロートホルン駅の改札口(左)。湖側の最前方席を確保した後に機関車を記念撮影(右)

 国内で最後に蒸気機関車に乗ったのは何時だったか・・・。1971年、大学2年の夏に北海道均一周遊券で巡った際が最後かもしれない。釧路行の夜行急行で、愛称は“十勝”だったか・・・。思い出せない。
 それから約47年が経過した2018年7月に蒸気機関車が押し上げる登山鉄道をスイスで体験しました。それも開放的な車両で、立ち、身を乗り出して堪能し得たのです。路線は、ブリエンツ・ロートホルン鉄道で、スイスの登山鉄道では、唯一電化されていないことでも知られています。
 同登山鉄道の基地はBrienzブリエンツ556mです。連泊しているSpiezシュピーツから、トゥーン湖畔、アーレ川沿いに走り、終着のInterlaken Ostインターラーケン東駅で乗り換えて、Luzernルツェルン行の[Luzern-Interlaken Express]に乗車します。私鉄Zentralbahn(Zb)の観光急行で、モントルーからルツェルンまでの私鉄が連なる観光路線[GoldenPass Line]の一翼を担っています。乗車すると、ブリエンツ湖畔を17分ほど走り、最初の停車駅がブリエンツです。同駅はブリエンツ湖観光船の同名桟橋と直結し、山側には道路を隔てて、登山鉄道駅があります。
 窓口でトラベルパスを提出し「Return」を告げ、50%offで往復乗車券を購入するつもりでした。が、係員の彼女は、「上りの第一便は割引価格になっているから・・・」と言い、結局4割引相当の価格!
 窓口には次の観光客もあり、押し問答とはなりません。彼女の言い値で購入しました。
 改札が始まるまで、予想したよりは賑やかく、狭い駅舎はやや混雑状態にありました。改札が始まり、駅舎を出ると、後方車両には既に乗車客が占め、ツアー客が先に導かれていたと思いつつ、速足で移動し、幸い、願い通りの先頭車両の最前列湖畔側・進行方向左側の席を確保。リュックを置き、機関車の撮影に心が躍ります。

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発車後間もなく、後方はトゥーン湖(左)。少し望遠撮影で迫力満点(中)。待避線を過ぎて登ります(右)

 全線がラックレイルの登山鉄道は、ロートホルン山頂に向けて、山腹をうねりながら登って行きます。ブリエンツ湖を眺め降ろしつつ、針葉樹の森や岩盤を刳り貫いたトンネルを抜けて、進行方向を変えます。速度の上がらない車窓の眼下には高山植物が連なるなど、スイスならではの景観に魅了されつつの、のんびりとした優雅な体験です。「牛小屋だな」をやや見上げて撮り、気づくと、遠くに見降ろします。
 またも、待避線を過ぎました。下る車両との遭遇があれば、さらに楽しいのでしょうが、登りの第一便であり、願いは適いません。汽笛を鳴らし、白煙を高く上げ、車窓を楽しませてくれました。
 標高が上がり、遠くの山脈が見える頃、「オ!アイガーだ!」と気づいて、感動しました。ベルナーオーバーラント三山は、アイガーに連なり弧状に南西方向へ、メンヒ、ユングフラウと続きます。位置的に、メンヒがアイガーの右肩(西)後方に顔を出し、少し離れてユングフラウが見えています。

トンネルを抜け、岩場を登り続けます(左)。白煙を高く上げる光景は嬉しかった(中)。アイガーなど三山が見えた(右)。望遠撮影したアイガー[E]、メンヒ[M]とユングフラウ[J]のベルナーオーバーラント三山

 ラックレイルをガタゴト走る登山列車の車窓から三山を望遠撮影しました。幸い、自己評価で及第点の一枚が撮れていました。
 三山は、Eigerアイガー3970m、Mönchメンヒ4107m、Jungfrauユングフラウ4158mですが、並んでいる位置・距離の関係で、手前のアイガーが、相対的に高く見えます。
 アイガーの北壁は暗く見えます。急峻な北壁全体が掌状の凹形であり、陽光を浴びにくいことが要因です。そのやや東側(写真左)の麓が日本人に馴染みのGrindelwaldグリンデルワルト1034mになります。
 グリンデルワルトからアイガーを見上げると、東側の稜線が村に近接している視覚効果で、相対的に高く見えますが、離れて見ると高さの差は歴然です。同様に、ユングフラウの形状も離れると頂上が際立ちます。
 三山の手前に連なる山の稜線の手前(北側)にグリンデルワルトからゴンドラで登るフィルストや、秀逸なトレイルを歩いて往復するバッハアルプ湖などが位置します。
 約1時間で、標高2244mの山頂駅に到着しました。「エ!こんなに?」と、内心驚いたほど、多くの観光客が降りました。早速、至近のロートホルン山頂に向かいます。界隈のトレイルは、歩行距離、時間、高低差などを、komootなどの専門サイトでシミュレーション済でしたから、呑気なハイキングでした。

山頂駅で下車(左)。乗って来た車両が下って行く(中)。リフトが運航休止でアイ湖には降りず(右) 

 ヒロさんが気づき、教えてくれました。乗って来た車両が下って行く様子です。しばし眺め、撮りました。心的少年には、乗車・車窓が嬉しく、楽しい限りで、飽きません。下車後も絵になるロートホルン登山鉄道です。
 尾根沿いを東に歩き、最初にめざしたのがEiseeアイ湖でした。尾根界隈と湖畔を結ぶリフトがありますが、ネットで調べても、夏季に運行しているか否かの情報が得られないままでした。
 湖を眺め降ろす地に来て初めて、リフトが運行していないことを知り、湖畔の散策を止めました。冬はスキー場として賑わうのですが、夏季の湖畔はわずかのハイカーが散見された程度で、湖畔は閑散としていました。

ブリエンツ・ロートホルン山頂界隈にて点描:トゥーン湖と多種多様の高山植物に魅せられた

 アイ湖を眺め降ろすトレイルを少し歩いた後に反転し、Brienzer Rothornロートホルン頂上2350mに設けられた展望台に上がり、しばし360度の景観に浸りました。
 ベルナーオーバーラント三山は、流れる雲で次々と頂上が見え隠れしており、上る途中の車窓での撮影がベストのタイミングだったこと、撮れたことに改めて安堵した次第でした。下手な写真でも数を撮れば当たりがあります。フィルムカメラ時代の素人写真と異なり、デジタル時代の恩恵を享受した感覚を抱きました。フィルムカメラ時代は、西欧旅行から帰国した後の現像、写真プリントで、格安店で処理しても3万円程度を必要としていたのですが、今日ではSDカード処理のみですから・・・。さらに、動画を撮れば、夜ホテル自室でYou Tubeにupし、SDカードの負荷軽減も図るのが常です。
 山頂での展望は、三山の他に、馴染みになったSchreckhornシュレックホルン4078m、Wetterhornヴェッターホルン3692mと当地方最高峰のFinsteraarhornフィンシュターアールホルン4274mの確認もし得ましたが、再々雲が遮り、水蒸気の影響もありましょうか、鮮鋭度を欠く写真に留まりました。素人が、手持ちのデジカメで撮影する限界を感じた次第でした。
 山頂展望台から駅方向にゆっくりと景観を楽しみつつ降ります。アイ湖畔に行かなかったことで、時間的ゆとりが生まれ、早めに降りて、前年2017年初秋に体験したSchynige Platteシーニゲプラッテを再訪し、三山は雲で遮られようが、足元が主体の高山植物園を、小生は13年ぶり、ヒロさんは初体験しようと決めました。
 下り列車が見える範囲内の場所で、各々が思い思いに、咲き誇る高山植物に魅せられつつ、優雅に撮影し得たことも貴重なひと時になりました。ブリエンツ湖などを背景に撮る際に、小生は膝を曲げる程度に留めていました。が、上質のカメラを購入して臨んだ相棒は定番的に、地球と一体化した姿勢で、高山植物と背景に三山やブリエンツ湖を入れて撮り続けていました。こっそりと微笑ましい様子も撮りましたが、本稿では割愛です。17歳の年齢差はありますが、お互い様で、全てを忘れて撮影に没頭している小生の様子も撮られているのでしょうから・・・。

下る途中、山羊との遭遇 。待避線でポイントを変換する車掌の彼女 。登る車両が見えた 。車掌の彼女は下のポイントの変換も担当 。登る車両を見送った ⑤ 後、発車し下って行きます 

 11時過ぎの下りに乗車したことで、往路と異なり、車内は閑散としていました。後尾車両の相向い4-6人掛けの長椅子様の席を独り占め、つまり、10人程度乗れるブースを独占し、右に左へと、車窓を堪能することが出来ました。
 そもそもブリエンツ・ロートホルン鉄道は、山に登る手段と言うよりは、乗ること自体に関心が大きかったわけであり、結果論ですが、十二分に楽しめたことは幸いでした。
 往路の一番列車は、下る車両との遭遇は皆無でしたが、昼前の下り便とあって、待避線での遭遇は4回も体験出来ました。但し、1回は小編成の荷物車、1回は工事用の切り整えた石を積んだ貨車で、待避線で荷下ろしを繰り返す様子でした。そして、2回は満席に見えた観光客で賑やかな客車との楽しい行き交いでした。
 人間以外には放牧中の乳牛の群れを眺め、また、線路際では山羊たちとの遭遇も。線路上にも居ましたが、慣れているのでしょう、列車が近づくと線路端に逃げ、山羊が乗客を観察するがごとくでした。
 待避線に差し掛かると、最後尾に居た車掌の彼女が降りて、登る車両のためにポイントを手動で切り替えて安全を確保し、次いで、先頭側に移動しました。登り車両の通過後に、同様にポイント操作し、乗っている車両が下るのに備えるのです。徐行してすれ違う際は、各々の乗客は笑顔で手を振る、カメラ撮影するなど、微笑ましい光景となります。
 岩場が続く地帯を抜け、針葉樹林の間も通過し、トゥーン湖が近くなる頃、再び、列車の行き違いを体験しました。今度は、登り車両が停車・待機しており、下りが待避線に入ると、動き出して、近接し、行き交います。

爽やかな林間やトゥーン湖を眺めつつ ② 下る。お!停車中の登り車両。待避線に入った 。互いに笑顔で手を振り、撮りつつの行き交い ⑤、通過した 上りを見送り 、再び下り始めた 

 再々の行き交いシーンであっても、環境、乗客の様子が異なりますし、飽きることがありません。小生の車内での表情・行動の様子は、風貌とは全く異なり、子ども心の表出でありましょう。親・保護者が安全担保のために、行き過ぎを抑制される子ども以上に、安全等に係る自己管理をした上での子ども行動であり、かつ、身長・身体能力が高いこともあり、より自由度を増しているのです。
 蒸気機関車によるブリエンツ・ロートホルン鉄道では、アナタも子どもになるに違いない。 

追記:子ども行動をしている小生(われわれ二人)を微笑んで眺めていた車掌の彼女が、何やら話しかけてきた。ドイツ語は勿論、英語の会話能力も劣る小生は、景色を眺め、撮ることに集中しつつ、懸命に聞き取り、たどたどしい単語の羅列で答えることになる。それまでの自由奔放な撮影行動が抑制されるので、コマッタ・・・!
 幸い、ヒロさんが応じてくれて、何やら会話をしていました。その間、彼が問い、石炭車を連結していない蒸気機関車のエネルギーがガソリンであると知ったのです。つまり、外観は可愛い蒸気機関車ですが、内実は白煙排出装置付のディーゼルカー!(と書くとロマンが失せるなぁ・・・。)
 登りの待避線で、汽笛と共に高く白い煙を高く噴出していたのは、やはりサービスでした。通常走行では、わずかに煙を出す程度でしたから・・・。

※ 本稿は鳥取県東部医師会報 随筆欄に掲載・連載(レイアウトは異なります)

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