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スイス悠々(3)メンリッヘンに親しむ

ヴェンゲン村 1274m からユングフラウを仰ぎ見る (左)。メンリッヘン山頂2343mから眺める 左からアイガー 3970m、メンヒ 4107m、ユングフラウ4158mのベルナーオーバーラント三山とシルバーホルン(:ユングフラウに隣接)の景観(中)。小生が愛するシルバーホルン 3695mを望遠撮影(右)

 メンリッヘンから南へ、クライネ・シャイデックまで下る散策路は、[難易度1、体力1]評価の容易なコース。正面にアイガー、メンヒなどを眺めつつの散策路で、自身憧れていた。ロープウェイで手軽に稜線に上がれることも幸いし、国内旅行業者のトレッキングツアーにも組み込まれる。
 現地の週間天気予報を基に、2015年6月29日(月)に出かけることにした。スイスパスが使えるので、グリンデルワルトの反対側に位置するヴェンゲン村へ移動した。ここで、パスを見せて半額で稜線へとゴンドラに乗って上がる。グリンデルワルトからも上がれるが、ヴェンゲンから上がる方が格安になることで決めた。
 ホテルの朝食は6:30開始だが、日々、若干早めに会場に降りて、アイガーを窓越しに見ることが出来る“指定席”に、7日間連続で座した。窓からの雄大な景観が朝食を脚色してくれたのは幸い。

スイス連邦鉄道のホームページは、実に充実しており、自由旅行者にはありがたいかぎりです。観光立国スイスの“おもてなし”の象徴とも言え、国鉄・私鉄・山岳鉄道・バスなど、一体化しています。

日本とは歴然とした差があります。

 この日はグリンデルワルト(Grindelwald 1034m)8:19発に乗車し、インターラーケンの二つ手前(Zweilütschinen 652m)で乗換えて、ラウターブルンネン(Lauterbrunnen 795m)へ。全線アプト式の登山鉄道であるヴェンゲルンアルプ鉄道(Wengernalpbahn; WAB)に乗り換え、9:21ヴェンゲン(Wengen 1274m)着。
 グリンデルワルトやラウターブルンネンとインターラーケンを結ぶベルナーオーバーラント鉄道(BOB)は急勾配区間ではアプト式で、それ以外は通常レールを快走する。アプト式に切り替わる際には極端な低速になることで分かる。一方、WABは全線がアプト式。勾配を比較した。BOBの平均勾配の約2倍の急勾配をWABは登り下りする。WABで体感した急勾配は計算上からもうなずけた。
 ヴェンゲン村は、スイス政府観光局HPに「ラウターブルンネン谷を見下ろすテラス状になった山の台地にある」と記されているが、その通りの景色が俯瞰できる。とくに、駅からの至近地に教会があり、この裏手が展望所となっており、立ち寄り実感できた。メンリッヘンへ登るロープウェイ乗場は両者のほぼ中間地点にある。実際の行動は、まず乗場に赴き、スイスパスを提示し、「One way!」を告げて、半額の11CHF(スイスフラン;決済額は1,493円;1CHF≒135.7円)でチケットを購入し、乗車する時刻(催行日は20分毎;盛夏は15分毎の運行)を確認した後に、教会の展望所へ寄り道をした。

 ロープウェイは稜線駅(2230m)まで、所要5分で約950m登る。景観はどんどん変化し、感動が大きい。ヴェンゲン村の家々がどんどん小さくなり、崖下・谷底のラウターブルンネンの家並が見え始め、米粒大に見える。教科書で馴染みのU字谷のラウターブルンネンの谷の全容と、谷に約300m落ちるシュタウプバッハの滝も見下ろし、目を上にやれば、ユングフラウなど氷河に被われた雄大な山並みが視界に入る。

 稜線に上がり、しばし大パノラマの景観に見惚れた。

 一方、足元の高山植物に目を留め、環境に浸った。

 一息ついた後、歩を頂上に向けた。前情報が皆無で、登りながら気づいたのは、真新しいベンチがあり、背もたれに[Männlichen Royal Walk]と刻印されていたこと。かつ、頂上に近づいてやっと気づいたことだが、展望台が新しく、王冠の形状であった。調べたら、2015年夏季からで、つまり、整備されて間もないメンリッヘンの《Royal Walk》だと知った。
 山頂まで時間を費やし、かつ、山頂でもゆっくりし、新たに購入したカメラに三脚を付けて、望遠撮影を楽しんだ。その最中、日本人が次々と登って来る姿を垣間見た。小生は挨拶程度で、カメラに向かい、ヒロさんが話しかけられ、日本語の会話が聞こえていた。ふと気づくと、日本人は我々だけになっていた。
 何故?素晴らしい場所であり、ゆっくりと身を置いて良かろうに・・・と思った。しばらくして気づいた。日本の旅行業者によるハイキング・トレッキング主体のツアーだと。きっと、グリンデルワルトから小型のゴンドラに乗り、メンリッヘンの稜線に登り、ここからクライネ・シャイデックまで下るコースであり、ツアーガイドさんは「健脚の方は、山頂への往復もどうぞ!」と話していたのかも知れない。
 確かに、HPには「高低差113m、距離800m、所要30分」の記載がある。が、これは身長が高く、下肢の長い西欧人向けの情報(www.maennlichen.ch/)であり、われわれのように、高山植物に目を留めてしゃがみ込み、立ち止まっては山並みを眺めつつの登りでは数倍の時間を費やすことになる。
 われわれは、メンリッヘン山頂駅から頂上往復までで約3時間を費やしていた。その後に、クライネ・シャイデックに向け、またもや停まりつつ、呑気に歩いた。

下山時に目にした情報

メンリッヘン山頂には王冠の形をした展望台が設けられ、道中はロイヤル・ウォーク(左)。山頂から見たラウターブルンネンのU字谷と、映画007のロケ地として知られるシルトホルン山頂の展望レストランを望遠撮影(中)。北側にはシーニゲプラッテがあり、これも望遠撮影し、ホテルレストランを強調(右)

 メンリッヘン山頂界隈で撮影した写真は、本稿では、7月2日(木)の撮影分も含まれる。① スイスパスを活用した気紛れ的な行程だったこと、② 前日は「4湖巡り」をしたこと、③ 翌日に「3つの絶景峠をポストバスで巡る旅」を計画したことがあり、④ また山に登りたくなった想いがあり、6月29日に次いで(中2日での)訪問となったが、遠慮がちにヒロさんに気持ちを話したら、即答的に「Yes!」の返答があった。結局、二人ともメンリッヘンに魅せられ、虜になっていた・・・。

高山植物に囲まれたロイヤル・ウォークと真新しいベンチ(左)。界隈には黄色の花が目立った。黄色い高山植物の種類も多い。拡大した花は、左からツシラゴ・ファルファラ、アルペン・ヴンドクレー、ゴルト・フィンガークラウトかもしれない(中)。ヴェンゲン村、ラウターブルンネンのU字谷が背景の自画像(右)

 高山植物は多様で、調べると亜種も多々あり、結局、諦めた。
 私事、オペラを愛好するようになり、心惹かれるアリアも実に多くなった。が、アリアの名称は、多くが邦訳された曲の冒頭の一部で名づけられており、ほぼ覚えていない。しかし、演出・舞台・衣裳は千差万別だが、オペラのどのシーンで、どんな心情で歌われるアリアであるかは分かる。そして、心をときめかせている。一例として、プッチーニの〔ラ・ボエーム La Bohème〕第一幕の後半で、貧乏学生のロドルフォがお針子のミミに出会い、fall in love!つまり、一目ぼれで、かつ、命がけの恋に落ちるのだが、その際、互いが自己紹介をするアリアのメロディーラインには、齢65歳を過ぎた今でも、心ときめく。ロドルフォとミミが相次いで歌うアリアの名・歌詞は今でも曖昧模糊。覚える気もない。
 これに似たようなことだが、メンリッヘンなるオペラに彩りを添える高山植物を可愛いアリアに例えると、アリアの名は知らない。が、各々がステキだ。飽きることはない。
 勿論、好天に恵まれたことは大きな要因。そう、オペラなら本会報に連載した≪ウィーンを愛して≫(No.401-6;2002年9月-13年7月)のウィーン国立歌劇場に例えることも出来ようが、本場・本拠地での視聴は、来日公演(:高価で体験出来ないでいる!)とは比べることが出来ない。
 メンリッヘンにおいて、青空、ベルナーオーバーラント三山を始めとした360度の雄大な大パノラマを舞台・大道具として、群落を成して咲き誇る高山植物さんたちが演じ、歌う・・・。
 とても、小生の文才では描けない。高山植物さんたち各々の写真が自ら物語ってくれよう・・・。
 時間にしばられず、気儘にメンリッヘンにいた事実に感謝し、公務がこなせている今がある。今後も、機会があれば、メンリッヘンには欠かさず登り、身を委ねたいと願う。そう、恋に落ちた人生・・・。
 きっとアナタもメンリッヘンで恋に落ちる・・・。

 エンチアン、アルペンローゼなど、初夏にメンリッヘンで出会った高山植物

※ 本稿は鳥取県東部医師会報 随筆欄に掲載・連載(レイアウトは異なります)

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