スイス悠々
〔続 スイス悠々〕
(12)エッギスホルンとアレッチ氷河
ローヌ川沿いに谷を上がる各駅停車(左)。新旧車両で編成のRegio(中)。渓谷に架かる鉄橋を通過中(右)
基地としているSpiezシュピーツからBrigブリークに出て、氷河急行が走る狭軌・単線の路線であるMGB (Matterhorn-Gotthard-Bahn) のRegio各駅停車に乗り換えます。
ローヌ氷河を起点とし、レマン湖を経て地中海に注ぐローヌ川が流れる谷を上流へ30分余走り、Fieschフィーシュで下車。駅から斜面を降り、ローヌ川の支流(Wysswasser)に架かる橋を渡り、上り路を歩いて計約10分余でゴンドラ乗り場に到着です。
約10分も歩くとなれば、初めての地であり、地図で確認を事前に済ませています。が、高低差は実感を伴いません。実際、氷河が削り取ったU字谷の川底に位置するフィーシュは、ローヌ川に架かる橋が、当然のことながら低く、鉄道駅とゴンドラ駅までは、予想以上に傾斜がありました。なお、Wysswasse は Weißwasser(白い流れ)で上流の氷河はアレッチ氷河の東側Fieschergletscher と Galmigletscher が合流し、溶け出した川と知りました。
本来なら、ゆっくりと散策して良い地ですが、接続するゴンドラに効率的に乗りたく、唯一、橋の界隈で、Wysswasser などを撮った際に歩を緩めた程度に留め、歩を速めました。
ゴンドラ駅でトラベルパスを提示し、「Eggishorn、Return」を告げ、50%offで乗車券を買い、ゴンドラへの乗車を待ちます。午後の時間帯でしたが、思った以上の乗客がありました。が、幸い、下界側の窓面に立つことが出来ました。とは言え、年季が入っているゴンドラで、窓には数多くの傷があり、撮影位置に苦労するほどでした。強風で、小石や氷が飛んでぶつかったための多くの線状の傷? やがては、新型に置き換わり、屋上バルコニーが設けられるなどのアイデアも・・・?!
ゴンドラは途中の鉄塔を通過する際の揺れ以外は、静かに上がっていきます。定番ですが、初めての景観に見入りつつ、撮影を繰り返していました。
フィーシュからゴンドラで上がります(左)。下るゴンドラとフィーシュ(左中)。歩いて上がる人たちが羨ましい(右中)。テラス上になった広い地で、ゴンドラを乗り換え、エッギスホルンに上がります(右)
時間、体力がなく、とても実現には至りませんが、歩いている二人を見降ろして、羨ましく思いました。一方、遠景。万年雪を抱く山脈は・・・? 方向は東南で、イタリアとスイスの国境地帯になりますが、今でも山頂の同定はできていません。
この地も谷底は氷河で覆われていたわけで、他の地同様に、ゴンドラでU字谷の崖面を登ると、土地がテラス状の傾斜面になります。台地状の地形であり、ホテル等があり、ハイキングトレイルが縦横に伸びていました。例えば、「山の裏側にあたる氷河湖メィエレンゼーに歩いていくコースも人気」とありますが、われわれには時間がありません。この地、即ち、Fiescheralpフィーシャーアルプでゴンドラを乗り換えて、一気に、山頂駅へ向かいます。ゴンドラ山頂駅から高低差は100m強です。
めざすのはEggishornエッギスホルン2927mで、2015年以降4年目にして、ゴンドラで上がる最高地点となります。2015-6年当時は、全く思いもしなかったエッギスホルン探訪ですが、西欧で最も著名・長大なAletschgletscher アレッチ氷河にちなんだアレッチ地方の北方に位置し、ゴンドラ山頂駅から山頂まで登ると360度の景観が楽しめます。西側の眼下にはアレッチ氷河の上流から、エッギスホルンに遮られて弧状に変化して眺め降ろす氷河の下流域を俯瞰し、西側正面には地名由来のAletschhornアレッチホルンと同氷河の雄大な景観に親しめるなど、予習段階でも期待感が大きい地でした。
かつ、アレッチ地方は晴天率が高いことでも知られています。訪れたこの日は、ホテル連泊の基地としているベルナーオーバーラント地方は降雨もある曇天で、山に上がるのには適しませんでした。予報を見て、及第点であったのが当地だったのです。
スイス政府観光局と邦訳されていますが、Switzerland Tourismにあるエッギスホルン展望台の紹介文を引用します。「フィーシャーアルプから大型ロープウェイでエッギスホルンへ。ベットマーホルンからの眺望と角度的には似ていますが、より高い位置で氷河を見下ろすことになります。山頂からは、ごつごつした岩と壮大な氷河が広がるワイルドなパノラマが楽しめます」と。
ワイルド・・・。山頂駅に近づくと、実にワイルド、荒々しく険しい岩山であり、山頂の駅舎から外に出たら、自身絶句!相棒のヒロさんが、どんな印象を抱いたのか聞いてはいませんが、小生には初めての荒々しい岩場でした。
湧き出ている雲はありますが、晴れ間が広がり、風はなく、体感気温も低くないコンディションであり、彼に意向を確認し、山頂をめざすことにしました。見渡す限りのガレ場には驚嘆しました。
エッギスホルンの山頂駅で下車し、想定外の荒々しい尾根を歩きます(左・中)。山頂[▲]が見える(右)
2005年にツアーでアレッチ氷河を体験したのは、最上流のユングフラウ・スフィンクス展望台3571mでした。快晴に恵まれていたのですが、唯一、アレッチ氷河の下流には雲が視界を遮っていました。今回は、逆に、下流域からユングフラウが望めれば幸いですが、天気予報通りなら適いません。が、期待感を込めつつ、歩を進めました。
大小の鋭い断片が多い岩が連なるトレイルを足元に注意し進みます。
荒々しい環境と対比して、全く異質に感じ、かつ、厳しい環境なのに何故・・・と驚きを感じたのが高山植物を目に留めた際でした。岩の隙間に土が見え、その気で見渡すと、次々と多種多様な高山植物を目にすることが出来たのです。驚きでした。
厳寒、暴風、多雪、低栄養地の条件を思いつつ、しゃがみ込み、記念に撮り続けました。
厳寒の地・暴風・積雪の環境下を耐え抜いて、健気に、可憐に咲き誇っていた高山植物に感動数種の高山植物が群落を成していた地にしゃがみこんで撮影:撮影した7月17日は最盛期?!
10歳位と思える少女が、家族連れでしょう、佇んでいる様子も合わせて撮影しました。幸い、時間の制約がないので、思うままに・・・。
急がず、着実に歩を進め、周囲の山々や氷河にも目を留めつつ、山頂に向かいます。
スイス政府観光局にあるアレッチ氷河の紹介文を引用します。
「アルプス最大・最長のアレッチ氷河(約23km)は、周辺の山々とあわせて世界自然遺産に登録されています。総称してアレッチ氷河と呼んでいますが、実際はメンヒから続くEwigschneefeldエーヴィッヒシュネーフェルトとユングフラウからのびるJungfraufirnユングフラウフィルン、アレッチホルンの北側に広がるAletschfirnアレッチフィルンという3つの氷河がKonkordiaplatzコンコーディアプラッツにて合流して、大きな氷の河Grosser Aletschgletscherグロッサー・アレッチグレッチャーとなり流れているものです。」
また、ウィキペディアには、アレッチ氷河がユーラシア大陸の西半分で見ても最大で、北はユングフラウに、南はマッサ川の峡谷群を経由してローヌ川に、東はMärjelenseeメルジェレン湖に、西はアレッチホルンにそれぞれ囲まれている」とあります。
地理愛好家の小生としてはwww.gps-tracks.comでアレッチ氷河の全容、名峰の確認もしました。
山頂に近づいた頃、見上げたら、トレッキングポールを使っていた若い白人男性が転倒!ポールが岩の裂け目に入り込んだためでしょう。幸い、転落、骨折等がなく、事なきを得ましたが、岩場・ガレ場の、とくに下りでは、危険を伴います。
山頂には、十字架をイメージさせるモニュメントがありました。台座に上がり、360度を眺め、撮影しました。
山頂モニュメント(左上)。同台座から北側にフォルダー湖(左下)。アレッチ氷河の下流域(中)。同上流域●は三つの流れが合流する地着(右) 。崖の直下、氷河上の青い水溜まり。右下の矢印はメルジェレン湖
アレッチ氷河の起始部、ユングフラウ方向には、残念ながら、天気予報通りで、雲が覆っていました。しばし立ち続け、待ちましたが、雲は晴れそうにありません。諦めました。
2005年の同氷河初体験時と逆のパターンで、わが人生で全容を眺める機会に恵まれるのか否か・・・。
山頂から眼下に青いスポットが目に留まりました。氷河上にあり、何故かここでだけ水が溜まっている?! 勿論、成因は不明です。仮に、次回訪れた際に、下流域に移動し、残っているのかどうか・・・。
その東部分に見えるのが氷河至近の小さなメルジェレン湖で、さらにその東側に位置する堰堤で流れが止られているVorderseeフォルダー湖があります。これらの湖を巡るトレイルもありますが、高低差、時間の両面で難易度が高く、わが人生で湖畔に立つことはないでしょう。
ところで、本稿を執筆するに際して、gps-tracks.comの詳細な地図を見ると、どうやらエッギスホルンからは、位置的にユングフラウは快晴でのみ眺められると認めました。アレッチ氷河の北側に位置するメンヒ、アイガーの眺望を含め、快晴の機会に再訪したく願います。
一方で、山頂から眺める北東側は、雲が動いて、高い峰々が威容を見せ、さらにアレッチ氷河の東側に北から南に伸びるFieschergletscherフィエッシャー氷河もしっかりと見えました。
アレッチ氷河の西に鎮座するアレッチホルン[▲](左)。風がない快晴は心地良い(中)。下りは慎重に(右)
見えた高い峰は、Grosses Fiescherhornグロッセス・フィエッシャーホルン 4049m、Gross Grünhornグロス・グリーンホルン 4044mや、その東側に位置するベルナーオーバーラント地方最高峰のFinsteraarhornフィンシュターアールホルン 4274mです。残念ながら、現地では、峰の同定については、確信に至りませんでした。
高山植物の名は、余りにも多種多様であり、名称確認は諦めていますが、一方、数が限定される名峰においては、見る位置によって山容が変わるため、これまた難しい面があります。
エッギスホルン山頂から、アレッチ氷河を跨いだ西側至近地にある氷河を抱く峰の名は分かります。Aletschornアレッチホルン4193mです。幸い、頂上が鮮明に見え続けていました。
一方、南方向は、視界が良い日なら、モンテローザなど、マッターホルンが、西南遠方にモンブランも見えると紹介されています。この日は、水蒸気が上がっていてか、峰は見えていましたが、推定レベルで同定ができず、かつ、写真を撮りましたが、鮮鋭さに欠け、紹介するには至りませんでした。
またの機会に恵まれることを念じつつ、山頂駅界隈を彷徨した後、下りゴンドラを待ちました。
上がって来るゴンドラ(左)。復路のゴンドラ車窓(中)。上がって来るゴンドラ(右)
追記:澄んだ快晴の天候を前提に、エッギスホルン山頂から名山などがどのように見えるのか Mapcarta - The Free Map で確認しました。夢・希望を託す地図です。とは言え、COVID-19 pandemic 禍が去り、安心して渡欧できる環境が必要であり、祈りつつの執筆しでした。(2020年6月時点は不可能)
Fiesch を流れる Wysswasser は名の通り“白川”で大きな氷河が溶け出した河川と学習(2020/6/9)
※ 本稿は鳥取県東部医師会報 随筆欄に掲載・連載(レイアウトは異なります)