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[スイス悠々] 2 リギ山とルツェルン湖

 欧州鉄道の旅 > 鉄道王国スイス > ゴールデンパス・ライン > ルツェルン・インターラーケン・エクスプレス[LUZERN-INTERLAKEN EXPRESS]
 鉄道ファンを自認している小生にとって、青年期から憧れ続けたのが、西欧の鉄道乗車体験だった。鉄道王国と称して良いスイスをパスで自由に乗車体験出来るとは、還暦を過ぎるまでは、全く想定外の人生だった。恵まれて、ロンドン・近郊を端緒として、ウィーン・パリ発着オーストリア・フランス国内日帰りの鉄道旅行を“超割”的格安チケットをネットで購入し、体験した後、まさかスイスへ、それもパスを活用して自由に、それこそ勝手気儘な鉄道旅行が出来たとは・・・。
 欧米生活・留学体験が皆無で、英会話は(かつての幼児語レベルが、孫の育ちを見守っている妻から)1歳児レベルと評され、ドイツ語はそれ以下の身と、自認している小生にして・・・。
 勿論、単に発語のみではなく、事前に旅行に必要な情報を収集し、シミュレーションを済ませ、安全かつ堪能できる計画を立案し、さらに、しっかりとした意思力を持って、現地で臨むがゆえに、2歳未満の発語レベルでも、目的は完遂できる。旅行業者を介さず、[地球の歩き方]やHP情報を活用し、情報収集とシミュレーションする過程は、例えば、中病に造血幹細胞移植(当時、同種・自家の骨髄移植)を導入する責務を担った際と同様の大脳の働き・使い方だと気づいたのは、近年のこと。
 還暦記念のロンドンでは、日曜日に郊外のハンプトンコート(同宮殿・庭園)に電車で出かけた。テムズ川をボートで下り、高級住宅街と公園・庭園が秀逸なリッチモンドに移動し、夕刻に電車でロンドンに戻った。2009年9月27日(日)の催行(本会報No395,2011年9月号 P.50-53)だったが、目的の一つに、日曜日にどんなシーンに出会えるかの期待があった。その後も、日曜日には(演奏会が昼前・午後もあるウィーンを除き)市民が憩う地を、かつ、移動自体が楽しい場所を求め、実践している。
 グリンデルワルトを基地として、スイスパスを使うに際しては、日曜日に、ルツェルンに出かけて、湖をクルーズし、山岳リゾート発祥の地であるリギ山に登る計画を当初から決めていた。勿論、山なので、催行に係る最終決定は天候によるが、幸い、スイスに到着した翌日の日曜日(2015年6月28日)当日は好天に恵まれた。
 グリンデルワルトに着いた翌朝、個人経営の☆☆ホテルの朝食は秀逸であった!小生は朝食をしっかり摂り、2回食で済ませるようになって30年以上になる。朝食内容が優れているのは幸い。

始発のインターラーケン・オスト駅から[ルツェルン-インターラーケン急行]新型車両 (左)に終着のルツェルンまで乗車。

風光明媚な車窓風景に心がときめく(中)。日曜日、窓が大きな2等車内の雰囲気(右)

始発(緑●) G:Grindelwald、O:Interlaken Ost、B:Brienzersee ブリエンツ湖、

M:Meiringen、 終着(赤●) L:Luzern、▲:観光車両、R:予約が望ましい

 スイス国鉄(SBB)のHPでルツェルンまでの行程を調べた。BOB(Berner Oberland Bahn)グリンデルワルト始発の各駅停車(Regio)でインターラーケン・オスト(東)駅に出て、同駅始発InterRegio(地域間急行)愛称〔LUZERN-INTERLAKEN EXPRESS〕# に乗り換える。[#:地方鉄道Zentralbahn 社(www.zentralbahn.ch/)の優等列車]
 ブリエンツ湖を眺めつつ走り、マイリンゲンで進行方向を変え、U字谷の急坂を雄大な景色を眺めつつアプト式鉄道で登り、峠越えの後は湖が点在する風光明媚な路線を走る人気路線で、[Golden Pass Line]の主要部分。
 日々の運行で、各駅の発着ホームや途中停車駅の情報、運行に係る地図情報などがHPで得られる(図)。行程のシミュレーションと鉄道での移動自体が楽しいが、この日の主目的はルツェルン湖を観光船で巡り、ロープウェイ、登山鉄道を乗り継いでリギ山に上がること。

ルツェルン駅前桟橋界隈・双塔のホーフ教会(左)。快晴で空気が澄んでおり、とにかく美しい。

観光船からの風景点描(中)。船首部分の様子・正面が1797mのリギ山方面(右)

 スイス発祥の古都で、かつては首都でもあったルツェルンの旧市街は、ユネスコの世界文化遺産に指定されている。一般車の進入が禁止された旧市街を歩くことは夕刻(本来目的を終えてから)として、この日はルツェルン駅到着後に桟橋へ直行。全ての列車が始発・終着となる、まさしくターミナル駅であるルツェルン駅の正面至近地にルツェルン湖の観光船が発着する桟橋がある。迷うことはない。
 未だに解せないでいるがHP情報にある“BAT”は何の略? コメント欄にShipとあり、アイコンも船と分かる。桟橋に表記されている“Ship 11”と行先を、念押し的に確認した後、乗船した。
 既に、かなりの観光客が乗船している。船尾は混んでいた。行先が東方であり、順光となる左舷側の、上甲板デッキの庇が出た通路に木製の席があり座した。安堵。出航後に係員が来てパスを提示した。

L:Luzern、W:Weggis、RS:Rigi Staffel、RK:Rigi Kulm 帰路はRKから電車で降りた(赤線)

L:Luzern、W:Weggis、RS:Rigi Staffel、RK:Rigi Kulm 帰路はRKから電車で降りた(赤線)
 山岳レジャー発祥の地と言えるのがリギ山(リギ・クルム Rigi Kulm)で、リギ山の頂上に上がるリギ登山鉄道はスイスで最初に開通。標高は伯耆大山並の1797mだが、周囲に高い山がなく、ルツェルン湖(フィアヴァルトシュテッテ湖)をはじめとした湖が点在していることと、アルプスが遠望出来る風光明媚な環境にあることから、現在も人気のある地で、日曜日は家族連れ等で賑わうであろうとみていた。移動手段は多客に対応できる船と電車なので困らない。
 スイスパスはロープウェイや登山電車は半額になるのが原則で、極一部の例外が、ここリギ山で、リギ登山鉄道とウェッギスから上がるロープウェイも追加料金が発生しない。理由は捜し得ていないが、リギ登山鉄道は1871年の開通で欧州最古山岳レジャーの発祥地という歴史があってのことと思っている。
 湖畔の桟橋に連動した起点駅からリギ登山鉄道での往復とはせず、変化を持たせて、往路はロープウェイを併用し、リギ鉄道に乗換え、山頂駅(Rigi Kulm)の一駅手前 Rigi Staffel で下車し、一駅分の登り坂(登山鉄道で所要5分)を歩くことにした。
 HP情報を検索する際に、上記の行程を得るために、出発地、目的地に加え、経由地を入力して、希望するルートの情報を得る。リギ山への往路は経由地に「Weggis」を入力して複数の選択肢が出る一覧から、ロープウェイ駅 Weggis (Luftseilbahn)を設定し、図示した情報を得ることが出来た。
 こうしたルート選択も、当然のことながら、自由旅行の楽しみの一つで、それに係る関心・意欲が衰えることはない。達成感・満足感が得られるがゆえ、脳の活性化になり、認知症対策にもなる・・・。

ロープウェイを降りて、至近駅からリギ登山鉄道の先頭に乗車し(左)、2駅乗って下車。リギ山への散策路は急峻な崖に隣接しており、ルツェルンの街、ルツェルン湖などの展望に優れている。自転車で登る人が少なくなかったことには驚いた(左中)。頂上への道も展望しつつの歩み(右中)。帰路は山頂駅からルツェルン湖畔までリギ登山鉄道に乗り、堪能した(右)この日は空気が澄んでおり、視界にも恵まれた。

 リギ登山鉄道は2路線があり、ルツェルン湖畔の起点駅(フィッツナウ)から往復する“赤い登山電車”と、北側の主要な鉄道駅(アルトゴールダウ)を基点とする “青い登山電車”がある。山頂まで5分の駅 Rigi Staffel で両路線が出会う。ここで下車して、赤・青の登山電車や界隈の雰囲気を撮った後、崖沿いのハイキングトレイルに進もうとしたら自転車で降りてきた青年と遭遇し、驚いた。つまり、湖畔から登山電車で32分かかる急坂を自転車で昇降している様を初めて目にした。遭遇したのが駅前の歩行者が行き交う場所で、青年が自転車を留めたタイミングだったことと、相棒のヒロさんがトライアスロンの現役で関心が高かったことから、青年に了解を得て、笑顔二人のツーショットを撮った。

 ハイキング、トレッキング専用サイト(www.komoot.de/plan)でシミュレーションした通り、崖道へと歩き始めた。
 出発地[Rigi Staffel]、終着地[Rigi Kulm]を入れ、スタンダードに出るトレイルを崖道へ移動(図では①~④を選択)すると、自動的に所要時間、歩行距離、上り・下りの高低差(設定したルートの場合は

所要時間22分、距離1.48km、上り160m、下り20m)や歩行路の特性などが表示される。

 Rigi Staffel から Rigi Kulm まで、所要22分と表示され、出国前は素直にとらえていたが、実際には大きく異なった。(本シリーズ1回目にも記したが、)短足の一般的な日本人向けではなく、足の長いガイジンさん向けの目安だった。もっとも、立ち止まっては景色を眺め、しゃがみこんでは高山植物を愛でて撮るなど環境に浸り、いわば道草を食う歩き方では、時間がいくらあっても足りない・・・。
 あとわずかで山頂に至る地点で、予定した下り登山電車まで15分程度。ヒロさんは急ぎ、山頂に向けて歩き始め、小生は眺めの良い場所に立ち止まり、(次回、妻を伴う際に頂上に上がることにして・・・)のんびりする時間とした。
 往路は最前列に立ち、軌道を見ながらの乗車7分、2駅の乗車だったが、山頂駅から湖畔駅まで下り31分間の“赤い登山電車”は、予想を超え、非常に楽しかった。窓は観音開き式で、180度開けると磁力で扉が固定され、腰に近い高さから上半身を出して楽しめた。山並みやルツェルン湖を遠望しつつ、クネクネと蛇行して下る登山電車の前方に様々に展開する湖などの風景に見惚れ、登って来る“赤い登山電車”も撮り、或いは、後方を見上げるように覗き込みながらで、座席に落ち着くことはなかった。
 湖畔駅フィッツナウでは、電車の向きを変える回転台がある程度の距離感で、桟橋に着いた。
 スイスの有名人にウィリアム・テルがいる。ロンドンのシャーロック・ホームズ以上の人気者で、オペラのタイトルロールになり、通貨にも登場するほど・・・。スイスの観光コースの一つにウィリアムテル急行(Wilhelm Tell Express)がある。この路線を特徴づけるのがルツェルンから外輪船で湖を南東端へ移動し、観光列車に乗り継ぐコースであり、その外輪船に乗りたい願いがあった。
 幸いスイス国鉄のHPで検索すると船を示す“BAT”の注釈に単にshipではなくて“Steam ship”が明記されている船便がある。つまり、ウィリアムテル急行の象徴である外輪船。対岸の桟橋にも立ち寄る、いわば各駅停車型の外輪船に、ルツェルンから遠のく方向に1時間ほど乗ることに決めていた。下船地はブルンネン(Brunnen)で、復路は同地からポストバスに乗って湖岸を走り・・・とシミュレーションを済ませていた。が、乗船し、日曜日のルツェルン湖の景色を眺めていると、素晴らしく心地良かった。当然、甲板に居続け、日焼けはするが、窓で塞がれることのない解放感のある光景であり、ヨット、モーターボートや、立漕ぎのサーフボードツアーの人たちなど・・・。(ポストバスは湖岸道路で景色は良いが、北岸だから逆光になり、窓を開けることが出来ず、となれば復路も船で・・・と思案し、)ヒロさんに「復路も船で・・・」と提案すると、彼も船旅を満喫していたので、即答的な賛同が得られた。
 実は、観光船内の案内カウンターにあるパンフレットを入手し、復路も“Steam ship”でとダイヤを確認した上での、確信的な提案だった。復路は北岸の要所に停まるのみの急行タイプで、乗船時間は1時間40分。当初の(ポストバスでの移動)計画通り、17時前にルツェルンに戻れる。

“Steam ship”外輪船が到着し、心が動く(左)。船旅を楽しむ人たち(中左)。復路、日曜日のウィリアムテル急行は、アルプホルンの演奏が出迎えてくれた(右中)。船尾にも移動し、船旅を満喫(右)

 ブルンネンで下船した後、桟橋界隈でひと時を過ごし、ルツェルン行に乗船した。“Steam ship”が着眼すると、何と、のどかなアルプホルンの響きが・・・!音源を探す・・・。
 上甲板でアルプホルンの生演奏が乗船客を出迎えてくれていた。事前情報皆無、絵になる光景に驚きつつも、心は和み、一方で、はしゃいだ。かつ、桟橋に着くたびにホルンの重奏が柔らかく響いた。桟橋に近づき、停泊し、出航するまでの数分間ずつであったが、船旅を盛り上げてくれる演出が嬉しかった。アルプホルンの演奏者は、高齢の男性であり、ボランティア的な契約と認めた。
 ルツェルンでは、終着地でもあり、お客が下船するのに時間を要したので、演奏時間も長かった。下船後、演奏者が立つ船腹の近くに寄り、小生はハーモニーをフォルテの“口ホルン”で競演した。演奏者の耳に届いたろうか・・・。ウィーンと異なり唯一の、しかし、稀有な音楽シーンだった。
 夕陽が照らすルツェルンの美しい旧市街を歩いた。カフェ・レストランは観光客で混んでおり、ジェラートを舐めるに留め、駅に戻った。地階にあるマーケットで、アルコール、食材を購入。復路も観光列車[LUZERN-INTERLAKEN EXPRESS]に乗車し、車内で乾杯し、充実した日曜日を称えた。

※ 本稿は鳥取県東部医師会報 随筆欄に掲載・連載(レイアウトは異なります)

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